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WAZAtoBA設立者の想い (2)西道広美

伝統品がもたらす価値を、ブランドを、使い手に伝えていく

過去25年ほど、国内外の企業のマーケティングリサーチに関わってきました。2009年に株式会社伝耕を創業し、マーケティング視点の「商品・サービス・人財」開発をサポートしています。
マーケティングとは、「誰に何をどう売るか」を軸にしてビジネスを構築するアメリカで生まれた理論で、欧米的価値観が基になっています。顧客が何を求めているかが中心で、商品が「どこで誰によってどんな風に生み出されてきたか」は、そのストーリーがビジネスに貢献しなければ、重視されません。しかし2013年、WAZAtoBAの現代表、松永武士と出会い、伝統工芸という新たな世界を知ることになりました。伝統工芸は土地に根差しており、それを代々引き継いできた人々と一体化しています。土着性というか、この場で生き続ける、作り続けるということに価値があります。なぜ作るのかという、「WHY」の部分が大きいことに、感銘を受けました。

そのころ松永は、震災で壊滅状態になった福島の伝統工芸品「大堀相馬焼」の復興活動を始めていました。私は1995年の阪神淡路大震災を経験し、大勢の人に助けてもらったので、東北に関して何かできればと思っていました。松永が、海外向けに伝統産業を販売していきたいという夢を持つことを知り、自分の経験がつながる気がしました。彼と会ったことをきっかけに復興支援活動を始めましたが、それまでは大堀相馬焼の存在すら知りませんでした。

地方の伝統工芸品は販売不振や後継者不足で、衰退傾向にあるものが少なくありません。その落ち行くスピードはゆっくりで、ゆでガエルの状況です。しかし、東日本大震災で多大な被害を受けた大堀相馬焼は、できること・できないことが、明確になりました。私は福島に地縁もない、いわば「外様」ですが、震災がなければ見られなかったであろうモノの見方や決め方、進め方などを、外部から支援して歩み寄ることができるのではと感じました。

新たな大堀相馬焼を創るために、伝耕で使っているワークショップのツール「伝版」で、大堀相馬焼の持つ、失ってはいけない価値やDNAを突き詰めていきました。マーケターやデザイナー、お客様になってくれそうな人々を集め、「勝手にコンセプト会議」と銘打った会を、2013年6月に開催しました。

様々な検討の結果、大堀相馬焼の特徴や強みである、「二重焼き」「ひび」「左馬」の伝統を活かしつつ、都会居住者女性で洗練と温かみのバランスがとれたものが好きな人をターゲットとしました。 ちょうど2014年が午年であることを生かし、あえて被災地から日本を元気にする「勝ちに行く」意味を込めた「KACHI-UMA」ブランドが生まれました。前から知っていた、クリエィティブディレクターの寺内ユミ(現WAZAtoBAメンバー)も協力し、商品コンセプト作りやデザイナーへの声掛けなどを進めていきました。その後生まれた10種類の湯飲み、クラウドファンディングの成功などは、寺内のコラムをご覧ください。


「KACHI-UMA」の成功を機に、JETROの方と知り合い、地域の伝統品の活性化やブランド化を促進するブランドプロデューサーをしませんかと、お声がけいただきました。2016年度には、鹿児島県枕崎市の「枕崎鰹節」や大阪府堺市の「堺打刃物」に関わりました。

枕崎は300年以上の歴史を持つ、鰹節生産量日本一の産地です。その中でも伝統製法が現代まで引き継がれ、今でもほとんど手作業で作られるのが、枕崎鰹節と呼ばれるものです。2010年、地域団体商標「枕崎鰹節」とそのロゴが登録されました。従来は、地域と商品名の組み合わせ名での商標登録は認められていませんでしたが、地域経済活性化支援のため、2006年から組合や商工会議所など限られた組織のみ出願や登録ができるようになりました。

私は、枕崎鰹節の英語サイトを作り、その歴史や製法を紹介し、レシピも掲載することをご提案しました。地元のフランス料理のシェフで、日本を代表する方にレシピを作っていただきました。日本人シェフだからこそ分かる、枕崎鰹節の良さを伝える、和食に限らない広がりを期待しています。
また、600年の歴史を持つ、プロ用包丁で国内トップシェアの大阪府堺市の刃物のブランド支援も行いました。

「堺打刃物」は、2006年に地域登録商標に認められています。

2016年10月、シンガポールで開催された、ASEAN市場最大級の日本の食に特化した見本市に出展しましたが、単に包丁を見せるだけではなく、包丁を使うプロであるシェフに美味しい料理を作ってもらいました。これまでの見本市は、どちらかというと商品の陳列にとどまっており、その商品がどんな価値をもたらすかが伝え切れていなかった気がします。海外に出ても、まず相手に好きだと思って選んでいただき、信頼してもらうことが大切です。

伝産品の作り手は、往々にして長い歴史の中で育まれ、良いとされた基準に沿っています。製品が広く世の中に商品として売られたときに、お客様がそれをどのように受け取るのかを考える習慣がありません。その商品がどのような価値を生み出すか、言い方ややり方を少し変えるだけで、「あっ、そうだったのか」という驚きが生まれます。そのような活動を、無理なく、でもあまりのんびりでもなく、進めていきたいです。
WAZAtoBAでは、小さくスタートしつつ、今まで学んできたことを発信し、マーケティングやブランディングに困っている人とコミュニティを作り、学ぶ場を作りたいです。伝統工芸や地方産品という業界にいる人だけが集まるのではなく、お客様や異分野の人を巻き込んでいきたいです。


動画は、JETRO Global eye シリーズ「地域ブランド」 ‐本物の旨みを世界へ より